「エージェントを作るな、スキルを作れ」──Anthropicが語る次世代AIエージェント設計
Anthropic社の Barry Zhang 氏と Mahesh Murag 氏による講演
「Don't Build Agents, Build Skills Instead」 は、
これからの AI エージェント設計に対する考え方を大きく転換させる内容でした。
その核心はシンプルです。
用途ごとにエージェントを作るのではなく、
汎用エージェントに「スキル(技能)」を習得させよ
本記事では、この講演の内容をもとに
「なぜスキルという考え方が重要なのか」「スキルとは何か」「何が変わるのか」を整理します。
なぜ今「スキル」が必要なのか
近年の AI エージェントは、推論能力や言語理解において非常に高い性能を持っています。
しかし、実務で使おうとすると、次の壁にぶつかります。
汎用性は高いが、専門性が足りない
一時期は「業務ごとに専用エージェントを作る」ことが想定されていました。
しかし実際には、
- コードがデジタル世界の共通インターフェース
- コードを扱えるエージェントは、想像以上に汎用的
であることが分かってきました。
一方で、問題はそこから先です。
数学の天才に、いきなり税務や経理を任せられないように
AI も「業務の文脈・手順・暗黙知」を知らなければ成果は安定しない
つまり、エージェントには「知能」ではなく
実務を遂行するための専門知識=スキルが不足しているのです。
「スキル」とは何か?
Anthropic が定義するスキルは、非常に実務的です。
スキル = 構成可能な手順知識をまとめたフォルダ
スキルとは、
エージェントのために用意された
「手順・判断基準・コード」をまとめたパッケージ
と考えると分かりやすいでしょう。
特徴① シンプルで扱いやすい構造
- 中身は markdown の手順書やスクリプト
- 人間も AI も読める
- Git で管理・共有・バージョン管理が可能
特徴② コードを含められる柔軟性
- Python などのコードを含められる
- 従来の「ツール」と違い、自己記述的で修正可能
- エージェント自身が状況に応じて調整できる
特徴③ コンテキスト効率が良い
- 実行時は「メタデータのみ」モデルに提示
- 必要なときだけ詳細を読み込む
- 数百のスキルを扱ってもコンテキストを圧迫しない
MCPとの関係:接続と専門知識の分業
スキルは、既存の MCP(Model Context Protocol) と対立する概念ではありません。
むしろ、役割分担が明確です。
| 役割 | 概念 |
|---|---|
| 外部データ・ツールとの接続 | MCP(Connectivity) |
| 何をどう使うかの知識 | スキル(Expertise) |
- MCP は「外の世界とつなぐ」
- スキルは「どう使って仕事をするかを教える」
スキルは、複数の MCP ツールを組み合わせた
業務フローそのものをエージェントに教えるための仕組みです。
非エンジニアも参加できる「知識の民主化」
この設計の重要なポイントは、
スキルはエンジニアだけのものではない
という点です。
- 財務担当者が会計処理のスキルを作る
- 法務担当者が契約レビューのスキルを作る
- 採用担当者が面接フローのスキルを作る
専門知識を「コード化された手順」として残すことで、
組織全体がエージェントを育てる側に回れます。
未来のビジョン:スキルは組織の「手続き型メモリ」
スキルは単なる補助ツールではありません。
講演では、スキルを エージェントの「手続き型メモリ」 と位置づけています。
継続的に蓄積される知見
- エージェントが作業を通じてスキルを改善
- 改善されたスキルはチーム全体で再利用
- 属人化していたノウハウが資産になる
使うほど賢くなるエージェント
- 組織独自のルールを理解
- 社内ツールの癖を把握
- 「その会社らしい判断」ができるようになる
比喩で理解する:CPU・OS・アプリケーション
この考え方は、コンピュータの構造に例えると非常に分かりやすくなります。
- AIモデル:CPU(プロセッサ)
- エージェント実行環境:OS
- スキル:アプリケーション
CPU や OS を作れる企業は限られています。
しかし、
アプリケーション(=スキル)は、誰でも作れる
これこそが、Anthropic が示す世界観です。
まとめ
- エージェントを用途ごとに作る時代は終わりつつある
- 汎用エージェントに「スキル」を教える設計が重要
- スキルは、手順・判断・コードをまとめた知識パッケージ
- MCP が「接続」、スキルが「専門知識」を担う
- スキルは組織の知見を蓄積する新しいメディアになる
「AIを導入する」から
「AIに何を教えるか」へ
この視点の転換こそが、次の AI 活用フェーズの本質と言えそうです。

